夏目録−只今勉強中

小説と紙とインクが好きな物書き。只今あれこれ勉強中につき。

無農薬栽培

コンビニで鉢植えを買った。素っ気ない外見と手触りの鉢は、どの角度から観てもプラスチック以外のなにものでもなく、何の期待も生み出さない。植えられているのは葉の先が二股に分かれた、小さな小さな名前も知らない何かであって、それもまた何の期待も生み出さなかった。

白いラベルには一言「無農薬栽培」とあるだけ。

飲みかけのペットボトルから、まるで水を分かち合うようにちろちろと、細く糸をひくようなしつこさで水を落とす。これが日課。

土の表面が程よく湿り、部屋の黄色っぽいライトを反射するくらいになると、指先で土を押してみる。指先は湿り気に気を良くしたかのように、意思とは無関係に中へ中へと潜り込みたい衝動だけに支配された。指先にまとわりつくような、薄い水の膜。

中はどうだろうか。この指よりも暖かく、湿潤な空間なのだろうか。

ぐるりと指を回せばどうだろうか。土の粒は指先をなめるだろうか。

さらに奥に差し入れれば、つんとこれを押し返すのは鉢の底か。

爪にかかる部分を執拗になで回し、ことさらゆっくりと指を引き抜いた。

口の中に唾液が溜まる。葉の先に茎の先に、いつか見えるだろうつぼみの色を夢想した。開くだろう花を脳裏に描き、散るだろう様を「ああ」と声に乗せる。

散った花弁を指で押しつぶし、僅かな湿り気を台へとこすりつける。

その指を食めば、どことなく苦みがあろうか。

そうして二つ、不要を捨てた。

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